USB-PDで大電力を送ることができる仕組み

はじめに
お久しぶりです。ALTURA XでCPOをやっている山下です。今回は本業とはまったく関係な話をしたいと思います。
USB PDでは小さなUSB Type-cコネクタで240Wという大きな電力を通すことができます。以前、ロボットの研究をしていたときにACアダプター用の最大電流2Aほどのコネクタに100Wほど流して溶かしてしまったことがあります。このコネクタはUSB Type-Cよりも大きかったのですが、残念ながら100Wには耐えられませんでした。このときは、正直こんなに電流が流れるとは思っていなかったので想定外の消費電流に驚いた記憶があります。このとき使ったコネクタより小さなコネクタで大電力を流すことができるのはなぜなのか調べてみました。
USB PDとは?
USB Power Delivery(USB PD)は、USB規格の一部として策定された電力供給の仕様です。USB-PDは、従来のUSB規格に比べて大幅に高い電力を供給できるよう設計されており、最大240Wまでの給電が可能です。この仕様は、さまざまなデバイスに対応する柔軟性と効率性を備えており、スマートフォン、タブレット、ノートパソコンなどの充電に利用されています。
USB-PDの主な特徴には、電力供給方向の柔軟な切り替え(双方向給電)、複数の電圧プロファイル(5V、9V、15V、20V、48V)、および通信プロトコルを通じてデバイス間で必要な電力を協議する機能が含まれます。この仕組みにより、各デバイスに最適な電力を効率的に供給することができます。
なぜ240Wを給電できるのか?
USB type-cのコネクタは皆様もご存知の通り非常に小さく、240Wを通せるようには見えません。
以前のノートPCのACパワーアダプターのコネクターは多くの機種でUSB type-cコネクタよりも大きい印象かと思います。実際、私が使っているLenovoも大きいコネクタが使われています。
なぜコネクタが大きくないといけないのか
抵抗で発生する単位時間あたりの熱量は以下の式で求めることができます。
Q:熱量、R:抵抗、I:電流です。
ここで、熱量は流す電流と抵抗のみが重要であり、電圧は関係ないことがわかります。次に上記の式で熱量に影響があるのが抵抗です。
コネクタの表面はニッケルメッキ(参考:秋月電子様)が施されており、八光電機様の資料を参考にすると0度のとき体積抵抗率は6.2Ωと非常に小さいことが読み取れます。端子にはメッキという形でニッケルが使われており非常に薄いことからニッケルそのものの抵抗値が非常に小さくなりますが、0というわけにはいきません。
結果、大電流を流すコネクタは接点抵抗(コネクタの中の金属同士が接する箇所の抵抗)をできるだけ小さくするために接点の面積を大きくするようにします。結果として大きな電流を流すコネクタは大きくなる傾向にあります。実際、ワークステーション用のノートPCとなるとスイッチング電源(ノートパソコンとコンセントつなぐときに間にある黒い箱)が大きなりコネクタも大きなものを使用することになります。
なぜUSB Type-Cはコネクタを小さくできるのか
USB1.1や2.0の時代では5Vでの給電で固定されており、大きな電力を確保するためには電流を増やすしかありませんでした。USB PD規格では給電先と通信し、USB-PDに対応していることが確認できたあとに48Vで電力を供給する仕様になっています。電圧が48Vもあれば、0.5Aの電流を流すだけで240Wの電力を確保することができます。
このとき240Wの給電を行っても0.5Aしか電流は流れていないので小さいコネクタ=大きいコネクタに比べて接点抵抗が大きくても発熱が小さくて済みます。
終わりに
USB-PDが登場してからかなり時間が経ちますが、なかなか仕様を見る機会がありませんでした。以前からなぜ小さなコネクタで大きな電力を通すことができるのだろうと疑問に思っていたことが解消されました。聞いてしまえば納得ですが、こういう発想ができるUSB Type-Cの仕様を策定された皆様を素直に尊敬します。USB4の規格もリリースされており、今後もさらに発展していくものと思います。
本業とはまったく関係ないですが、弊社ではこういったことも発見があれば共有するようにしています。